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朝の登校時間。 山根さんからは、あれ以来特に夢についての話は聞けていない。 ……正直、訊くのが怖かった。訊いたことで、関係が壊れてしまうことを避けたかった。 夢を紐解く手がかりになるのは間違いないのだけど……。 同じ夢を見ることって、あるのかな?フリッツ先生やモルトケ先輩は、そういった知識があるだろうか。 また機会があったら、訊いてみよう。 そんなことを考えながら校門に差し掛かると、花壇を手入れしている同級生の姿が。 「あっ、おはよーとーうちゃん」 とーうちゃん。この子も、夢の中では駆逐艦"凍雨"として出てくる。 カイくん同様に、姿かたちも性格も、それほど相違が無いままに。 「お、おはよう、ございます……!」 「今朝も早くから水やりかよー偉すぎか?」 「そ、そんなこと……ありません、よ?美化委員、ですから」 生き物を大切にしている、絵に描いたような優しい子。 一人で集中している事が多いから、あんまり積極的に声をかける機会は無かった。 「あ、あのっ!」 ……なんて思ってるそばから、まさか声をかけられるとは思わなかったのでビックリしてしまった。 「ん?どうしたの、とーうちゃん」 「わ、私……ゆ、夢美さんにお話したいことがありますっ!!」 「えっ、私に?突然どうしたの?」 「おっ告白か?」 「なんでそーなるのよ!」 「あわ、えっと、そういうんじゃなくって……」 とーうちゃんの目が泳いでしまっている。カイくんのせいだぞっ。 「あの、その……夢見さんの見てる"夢"に関係するかもしれなくって……」 ずきん、と心臓に衝撃が走った。予想外の方向から来た。 「……そういうことなら、お昼休みに改めて、ゆっくり話そっか」 昼休み。午前中の授業はさっぱり頭に入ってこなかった。 とーうちゃんがどういう話をするのか、ずっと頭の中をぐるぐるしていた。 「夢美さん、なんだかずっとそわそわしてましたよね……ごめんなさい。朝にする話じゃ、なかったかも」 うわ、バレてる。 「いやいやいーのいーの、とーうちゃんなんにも悪くないよ!……それで、夢、の話なんだっけ」 「……はい。夢美さん、ここのところ、自分が軍艦として戦う夢を見てる、みたいなことを、お話してますよね」 「そうそう。実はとーうちゃんも出てくるのよ」 「…………雨氷型駆逐艦"凍雨"ですか」 こうも具体的に単語が出てくるとドキドキしてしまう。 「……そう。雨氷型駆逐艦。たぶん、この世界には実在しないんだよね?」 「そう、です。この世界には、そんなものは、存在しません……」 「とーうちゃんは、どうして知ってるの?同じ夢を見てたり?」 「いいえ、私はそうじゃなくて…………」 とーうちゃんは語り始める。 小さな頃から、物言わぬ駆逐艦凍雨としての記憶があったこと。 でも、この世界には存在しないと知ったこと。 そして……この学校には、私を含めて、艦船として知っている人がたくさん居ること。 私の見ている夢と近しいようで……決定的に違うところがある。 「私の見ている夢じゃ、みんなヒトの形してるのよね」 「私の記憶では、私たちの知る、人が乗ることで戦える軍艦なんですけど……」 そして彼女は続けて語る。 駆逐艦"凍雨"の搭乗員のこと、艦長のこと、そして……最期のこと。 ……とーうちゃんの記憶は、あくまで記憶なのだ。 一方で私は、夢として現在進行系の事象。夢の中では自分の意志で動いている。 流石に夢の中の凍雨ちゃんが何を経験したのかまでは把握していない。 とーうちゃんの記憶の方も、正確な年月日まではわからないようだ。 「……余計に謎、深まっちゃったなぁ」 「そう、みたいですね…………お力になれず、すみません……」 「ううん、お話してくれてありがとう!もしかしたら、これから役に立つかもしれないし」 「そう言ってもらえると私も……嬉しいです」 「ふふ、もうそんなよそよそしくしなくていいんだよ?」 「えっ?」 「だって、もう秘密を共有する仲じゃない。友達だよ友達」 「友、達……」 少し照れくさそうにするとーうちゃん。 「そう、ですね。お友達です!」 「うんうん。別にさ、秘密のお話以外にもさ、一緒にいろんなことしてみたいし」 「そういうの、不慣れですけど……よろしくお願いします!」 お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。 「あ、もう席に戻らないと……夢の中の私も、よろしくお願いしますね」 「うん、もちろん!」 ……結果的には、良かったのかな? 下校時間。 私とカイくんは、とーうちゃんの美化委員のお仕事が終わるまで校門前で待っていた。 帰っていく生徒を眺める。 私の夢の中で艦船として知っている子は言うほど多くないのだけど、とーうちゃんは、もっともっと心当たりがあるのだろうか。 「やっほーゆめみん、カイくんともども何してんの」 「あ、樹雨ちゃんに氷雨ちゃん。私らとーうちゃん待ち」 樹雨ちゃん。誰にでもこんな調子で渾名をつけて呼ぶフレンドリーな子。 「あぁ、彼女ならさっき道具を片付けていた。じきに来ると思うよ」 氷雨ちゃん。どこかクールな子。よく樹雨ちゃんと居るのを見かける。 「そういうことならお先に失礼~じゃあねー♪」 「気を付けてねー」 温度差がある二人だけど、だからこそああやって仲が良いのか……どうなんだろう。 「あらあら、いつも仲睦まじくお帰りのお二人がどうしてここに?待ち合わせかしら?」 氷輪ちゃん。この子は夢の中でも知っている。あまり雰囲気は違わない。 「ええ、とーうちゃんを待ってるんです」 「へぇ、あの子を。そう……楽しい帰り路になるといいわね」 ……本当に同級生なんだろうか、この子は。 校門の反対側を見ると、ろーせつちゃんが妹さん?と合流して帰ろうとしている。 こちらに気づいたのか、手を振ってくれたので振り返す。 別のクラスなので話す機会は無いけど、よく見かけるので挨拶くらいはしている。 何度かしてたら、気づいてくれたのか返してくれるようになったんだよね。 「やぁ。待ち人かい」 「留萌パイセンちーっす」 「ええ、同じクラスの子を待ってるんです」 留萌先輩。夢の中では同期の軽巡洋艦……なのだけど、全然雰囲気が違う。夢の中では凄く気弱な感じ。 現実ではなんというか、"圧"がある。別人みたいだ。いや、別人なんだろうけど。 「そうかい。しかし、しばらく眺めていたけど、随分と色んな子に声をかけられているじゃないか」 「見てたんですか?まぁ…みんな良い子ですから」 「ボクは君の資質によるものだと思うけどね」 「どういうことですか?」 「ふふ。いつかわかる日が来るよ」 「パイセンの意味深発言始まったわー」 「なんでもいいけど、暗くなる前に帰りなよ。じゃ」 ……なんなのだろう、この先輩。 「みーつけた!」 背筋に悪寒が走る。甲高く響くこの声の主は……。 「ねーぇ、演劇部も体験入部してみない~?」 「ま、また今度で……」 アリス……夢の中で見た子、この学校にも居たんだ。 追いすがられている金髪ポニーテールの子に部活の勧誘をしているだけで、私に声をかけた訳じゃないみたいだ。 心臓に悪い。ふたりとも高等部三年の記章がついている。どちらも先輩らしい。 アリス先輩が振り向き、目が合う。彼女はニコッとすると、校内へ戻っていった。やっぱり怖い。 「お待たせしました~!」 とーうちゃんだ。 「おつかれー」 「用具の整理にちょっと時間かかって遅くなっちゃいました」 「気にしないよ~。それじゃ、帰ろっか」 「……はい!」 こうして、私たち三人は帰路につくのでした。 (おわり)
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猫は自らの死期を悟ると、人知れず姿を消すという。 自分の死体を見せたくないのだとか、死ぬべき場所を探しに行くのだとか、諸説ある。 小噺好きの同級生が声高にそんなうんちくを語っているのを聞いて、僕はあぁ、なるほどと妙に納得してしまったのだ。 あまりにも、あてはまり過ぎていたので。 「……あなたは犬っぽいわね、苗木君」 脈絡も無しに霧切さんがそう切り出したので、僕はしばらく忘れていたその猫の話を思い出した。 そういう霧切さんは猫っぽいね、と言い返そうとして、やめる。 なんというか、女の子に『猫っぽいね』だなんて、ちょっといやらしい意味に取られてしまうかもしれない。 「どの辺が?」 「大好きな御主人の為に死にそうなところ、とか」 さらり、と言葉の刃が心臓に突き刺さった。 相変わらず冗談の切れ味が鋭い。否定できないところが、ますます痛かったりする。 二人だけが残っている教室の、ほんのわずかにあけ放たれた窓が風を呼び込んで、絹のような銀髪を揺らしている。 言い放った霧切さんは、どこかアンニュイな表情を浮かべている。 情か理で言えば、理の人だ。何も考えずに物騒な事を口走ったりはしない。 どうしていきなり彼女がそんな事を言い出したのか、僕は気になったので、訪ねてみることにした。 「苗木君は……」 すみれ色の石のような瞳が、僕を覗き込む。 「自分と、大切な人。どちらか一人が死ななければいけない時……どうする?」 また脈絡のない質問を。 しかも、微妙に重い。声の調子からしても、冗談や話の種ではなく本気で答えを求めている。 「どうする、って……」 「大切な人を助けるために、自分から命を絶つ? それとも……」 「そんなの……状況によって、違うんじゃないかな」 何とも僕らしい、オーソドックスで当たり障りのない答えだ。 当然霧切さんが納得するはずもなく、複雑そうに眉根を寄せて、小さな声で「ん……」と唸っている。 「じゃあ、視点を変えるわ」 「視点?」 「ええ、もっと分かりやすい……そうね、苗木君が答えやすいように」 それなら、どうして最初からそうしてくれないのだろうか。 「貴方の大切な人が、どうしても生きたい理由があって……自分が生きるために、貴方を見捨てたとしたら」 教室には、僕と霧切さんだけがいた。 他の誰もいない。影もない。声も足音もしない。時計の針は、ずっと止まっている。 「貴方は、その相手を……やっぱり、恨んでしまうかしら……?」 「どうして?」 返した僕の第一声は、それだった。 面喰らったように、霧切さんが二、三度目を瞬かせる。 「残念には思うけど、その人が悪いわけじゃあないじゃないか。ましてや大切な人なんだし、恨んだりはしないよ」 何かを言いたげに、霧切さんは口を開いて、けれども言葉が見つからないのか、すぐに閉じた。 理解しきれない、という表情で。 しばらくそれを繰り返した後、泣きそうな表情で、少しだけ俯く。 「私は、……きっと、同じことをされたら恨んでしまうわ」 罪を告白するかのような口ぶりだった。 彼女が泣く時は、表情を一切変えない。 声も上げず、息も震わせない。 自分が泣いていることにすら気付いていないのではないか、と思ってしまう。 「相手は悪くない、と……頭では分かっていても……。苗木君、私を軽蔑する……?」 「しないよ」 「嘘……っ、軽蔑した、でしょう……いえ、軽蔑して。その方が、貴方に軽蔑される方が、ずっと……」 そこから先は声も為さず、掠れたような音を喉の奥から漏らす。 許される方が辛いってことも、あるのだろうか。 一呼吸置いて、彼女が落ち付くための時間を作る。 「生き残った方だって、きっと辛いんだ。それは、忘れないであげて」 ふと気が付いた。どうしてこんな話になったのだろう。 そもそも、いつから僕はここにいるのだろうか。 始まりはなんだったのだろうか。私は、 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「霧切さん、寝不足?」 彼女にしては珍しく欠伸をしていたので話しかけると、ふい、と目を逸らされてしまった。 「……昨晩、倒錯的な悪夢を見たのよ」 「倒錯的?」 「……自己嫌悪するほどね」 僕から目を逸らしたまま、なぜか気まずそうに霧切さんが言う。 未来機関のオフィスで、二人きりの昼休憩。特に話がはずむことも無く、気まずい空気が流れる。 相当嫌な夢だったのだろう、目を伏せた霧切さんが、その夢を思い返して顔をしかめているのが分かる。 「その、さ。元気出してよ」 「寝不足相手に、酷なことを言うのね」 「そんなに嫌な夢だったの?」 「ええ。……そういえば夢の中でも、苗木君に慰められたわ」 「……えっと」 答えに窮する。 なんというか、霧切さんのその言い方が、絶妙に色っぽくて。 そんな声と表情で『慰める』だなんて言われると、どうしてもこう、いやらしい方の意味を想像してしまう。 くす、と霧切さんが表情を崩した。 「……やっぱり、苗木君は犬っぽいわね」 「『やっぱり』、って?」 「こっちの話よ」 そういう霧切さんは猫っぽいなぁ、と思う。 「苗木君、犬は好きかしら」 「……実は、猫派なんだ」 「あら、そうなの?」 その答えに、僕がどういう意図を込めたかは語らなかった。 「それは残念ね」 けれど、霧切さんは笑った。 それはもう嬉しそうに。 「私は犬派なの、苗木君」 「……そっか」 「趣味が合わないわね」 「そ、そうだね……」 痛快な笑み、というものを、彼女は浮かべない。 心底嬉しい時は微笑を浮かべたまま、少しだけいつもより饒舌になる。 それだけのことなんだけれど、何故か妙に気恥ずかしくなってしまう。 「……ねえ、苗木君? よかったら、その猫のどこが魅力的なのか、私に教えてくれないかしら」 「え、あ、えっと、書類溜まってるから、僕はこれで、」 「今は昼休憩よ、苗木君」 「そ、そういう霧切さんは……犬のどこが好きなの?」 「馬鹿正直でお人好しで、ちょっとだけ前向きなところかしら」 くすくすと、小気味よく笑いながら、間髪入れずに返してくる。 これはもう確信犯だろう。 気遣っていたはずなのにいつの間にかはぐらかされて、気付けばからかわれているのにも、もう慣れた。 「……まあ、元気が出たようでなによりかな」 「……ありがとう、苗木君」 互いが最後に呟いた言葉だけは、お互いに届かずに終わる。 二人が互いの想いに気付くのは、まだまだ先のことだろう。
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毒符「憂鬱の毒」 呪力:2 レベル:メディスン 攻撃:1 迎撃:2 命中:4 種類:拡散 高速移動(1)
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書籍データ 書籍名 月虹の鏡 孤蝶の園の寵姫たち 巻数 1 著者 夢野 リコ イラスト 野田 みれい 出版社 コバルト文庫 発売日(1巻) 2010/7/1 11 :イラストに騙された名無しさん [↓] :2010/09/13(月) 06 32 48 ID 3FKkxNm2 先月のコバルトから出た 「悪魔のような花婿」 「月虹の鏡~胡蝶の園の寵姫たち~」 が良かった。 後者は新人さんなんでこれからに期待かな。 名前 コメント
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ファルファリーナ ファルファリーナとはピュアリィ類に属する種族のひとつ。 概要 ファルファリーナは美しい女性に美しい蝶の翅と触角が生えた姿をしたピュアリィ。 撒き散らす鱗粉には魅了の効果があり、蜜を吸い上げる蝶よろしくキスでこっちの体力を奪いにきたりもする。直接の攻撃力は低いが、それ以外の追加効果が鬱陶しい。 登場シナリオ 海賊群島編シナリオ“瑠璃蝶の楽園” 関連項目 ピュアリィ類
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幻蝶の雄姿(アニメ) 通常罠 相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。 その攻撃対象を自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する 「幻蝶」と名のついたモンスター1体に変更する。 幻蝶補助 罠
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千の毒晶(せんのどくしょう) 概要 登場作品 + 目次 ゼスティリア 関連リンク派生技 関連技 ネタ ゼスティリア 習得者 スレイ(神衣・風)、ロゼ(神衣・風) - 分類 奥義 属性 HIT数 消費SC 威力 詠唱時間 - 習得条件 スピード テクニック パワー 台詞 ▲ 関連リンク 派生技 関連技 ▲ ネタ ▲
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幻蝶の誘惑(アニメ) 永続魔法 このターン、相手フィールド上の表側攻撃表示で存在するモンスターは攻撃しなければならない。 攻撃しなかった場合、エンドフェイズ時にそのモンスターを破壊する。 永続 行動制限 魔法
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. 樫崎涯世にとってこの世界は、やすりで出来ていた。 彼を取り巻く全てが悪意と害意で荒く鋭利に象られて出来ていた。見目と耳障りの良いものだって、総て薄っぺらなハリボテだ。刃を振り上げれば、見せかけの仮面は直ぐに剥がれて元通り、ザラザラのろくでなしが顏を出した。 時々、ほんの僅かな水飴のような甘さを見かけたけれど、当然そんなものはあっという間に搾取されて、そこにはボロボロになったモノしか残っていなかった。 くだらない。 果てしなく広がる、荒れたザラザラの大地。 示された道などない。途方に暮れど腹は空く。身体に穴が空きそうな空腹に耐えかねてなんとか一歩踏み出せば、やすりが足の肌を削る。 悲鳴を上げても始まらない。嗚咽も唾棄も罵声も呪詛も、誰にも届かない。行く宛てもないのに、足を止める事など出来やしない。 害意の塊が涯世を追いかける。逃げるために足を動かす。動かす。動かす。 皮膚が破れる。足を引き摺る。肉がこそげ落ちる。 “涯世”が少しずつ削られて、消えていく。 つまらない、なんの意味もない世界。 そんなやすりの世界にずっといたのだから、さっさと人生やめちまっても良かったのだけれど、どうしてか涯世は昨日も今日も全身をぐちゃぐちゃに削られながら、また腹を空かせて彷徨ったのだった。 やわらかなものが、ひとつだけある。 記憶か夢かも定かではない其れは、涯世が削られ摩耗しきって、手放すように眼を閉じて、もう、良いかという眠りの淵に現れる。 あたたかな赤い光。そっと聴こえてくる唄声。 なだらかな揺らぎ。全身を包む、どうしようもないほどの安心感。 馬鹿馬鹿しい夢想だ。 瞼を開いてしまえば霞と消えてしまうと分かっていた。 それでも涯世は眼を開かずに居られなかった。 もしかしたら、もしかしたら。 このざらついたろくでもない世界が全て夢で、自分もやわらかな赤い光の中に生きられるのではないかと。 待ち受ける絶望を知っていても、手を伸ばさずに居られなかったのだ。 ────唄が聞こえた。 うとうととした微睡の中で、虎は唄を聴いていた。 暖かな陽光が差し込む縁側で、男性とも女性ともつかぬ優しい声が密やかに唄っている。 言祝の唄だ。 幼い子が人形に豪奢な着物を着せて愛でられるほど、永久に幸福であれと希う歌。 唄に合わせて柔らかくあやす手が、眠気を誘う。このまま眠ってしまいたいという思いにとらわれそうになるのを耐える。 だって、ひとめ見たい。もう知っているけれど、それでもこわいから。もしかしたら今度こそって、なんどでも思って、そのたびに痛かったから。 こんどこそ、こんどこそ。 おそれをぐっと堪え込んで、虎はそうっと眼を開いた。 陽光の眩しさに幾度か瞬いて。 きらきらと光が散りばんだその世界に、その美しい人は居た。 ぱち、ぱちと、瞬きを繰り返す。 「起きちゃった?」 ごめんねと、美しい人はいつものように虎の頭を撫ぜた。 嗚呼。いつのまにか詰まっていた息を、ゆるゆると吐き出す。何をあんなに恐れていたのか、もはや朧げで分からなかった。 虎が甘えるように手に頭を押し付ければ、美しい人が嬉しそうに微笑んで、大きな虎の身体を抱き寄せる。 「もしかしたら知ってる曲だったかな。この辺に伝わる子守り唄なんだって」 素敵な曲だよね。虎はその声に同意するようにくるると喉を鳴らして、その大きな瞳でじっと美しい人を見つめる。尾をゆらゆらと揺らす。 ねえ、ねえ。 もういっかい、うたって。 幼子のようなその声は音になっていたか分からなかった。 けれど美しい人はやわらかく頬をほころばせて「いいよ」と頭を撫でてくれたから、きっと伝わっているのだろう。 透き通る唄声が柔らかな陽差しに溶けていく。 労わるように頭を撫ぜる手のひらの優しさに、虎はようやく何のおそれを持たずにゆるりと眼を閉じた。 あたたかな赤い光。そっと聴こえてくる唄声。 なだらかな揺らぎ。全身を包む、どうしようもないほどの安心感。 やわらかなものがここにある。 こんな自分にさえも。 ゆめうつつな瞼の裏で、陽光が赤く滲んだ。 イメージ曲 偲芳歌/桑島法子
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魔法「魔界蝶の妖香」 レベル:白蓮 白蓮 呪力:2 攻撃:2 迎撃:1 命中:4 種類:拡散 [戦闘フェイズ]常時 このスペルが戦闘に参加する場合、自分のリーダーが「白蓮」ならば、フェイズ終了時自分のデッキの上から1枚を手札に加える。 追記